「何をしている!」
若き王の怒声に、室内は水を打ったように静まり返った。
何カ月もの時間をかけ、入念に準備を進め、更には予言の加護も受けた上でのゼロ捕獲作戦。さきほどゼロと思わしき人物を確保したところまでは、予定通りスムーズに事が運んだというのに。
かつてエリア11と呼ばれた日本にある黒の騎士団本部。自国の戦士の大半を所属させた世界唯一の軍隊に所属する主席補佐官であるシュナイゼルとの会談という名目で、この国に入国。護衛としてきた兵と、黒の騎士団に所属し、日本に駐屯している兵を集め、演習という名目で使用されるKMFを多数持ちこみ、この日に備えたというのに。
『逃走用のルートを断たれました』
そんな連絡が入るなんて。
ようやくだ。
ようやく枢木スザクが手に入るというのに。
ゼロによるEUやアジアでの戦闘の映像を見てすぐにわかった。
あれは、枢木スザクだと。
だれかが見よう見まねで行ったものではない。動きの癖、重心のかけ方、流れるように繰り出される技の数々。そのすべてが、ゼロは死んだはずの枢木スザクだと示していた。見間違えるはずがない。何度も何度も見続けたことで、動きの癖もなにもかも全て脳裏に焼き付いている。間違いなく、枢木スザクだ。
それに気づいた時、どれほど歓喜したか。
生きていたのだ、あの枢木スザクが。
死んだはずの最強の騎士。死んでもなお最強に居座り続ける男。彼の強さ誰の目にも明らかで、あの強さを手に入れその上に行かなければジルクスタンは最強とは言えない。
そう、枢木スザクを手に入れ、あの強さを分析、解析し、ジルクスタンこそが最強となるのだ。ようやく知ることができる。あと少しで枢木スザク本人から直接その強さのすべてを知る事ができるのだ。
全ての強さを手に入れてから、枢木スザクの生存を発表し、悪逆皇帝の騎士を討つ。ナイトオブワンとの戦闘よりも、紅蓮との戦闘よりも、もっと素晴らしい戦いを、歴史に残るような戦いを枢木スザクと行うのだ。
そして、誰の目にも明らかな形で最強の座を手に入れてみせる。
そのための第一歩だと言うのに。
『申し訳ありません』
「謝ってすむ『待ちなさい、シャリオ』
謝って済むことではない。と、叫ぼうとしたのを、別の声が遮った。その声に、若き王は安堵の表情を浮かべた。
「姉さん!」
『落ち着きなさい。確かに予定は狂いましたが、何も問題ありません』
「本当なの、姉さん?」
『私が嘘を言うとでも?』
疑われたことを怒るのではなく、小さく笑いながら諭すように言われ、若き王は笑顔で頷いた。
「姉さんの言うことに間違いはない」
『ええ、そうよ。私の予言の通りに行動すれば負けはないわ』
自身に満ちた言葉に、皆は勝利を確信し、新たな指示に耳を傾けた。
遠くで、爆撃音が聞こえた気がした。
でも、何も指示がないからカレンは動けずにいた。
あの音は、屋敷のほうじゃないかしら?そうは思っても、スザクをさらった連中の足止めをしている今、ここを動く訳にはいかない。焦りが判断を鈍らせかねないと、思考を一度切り離す。スザクは拘束されはしたが、正体はまだ明らかにされていない。寝袋のような形の拘束具に押し込まれミノムシのような状態にされてから、スザクの前で挨拶をした男が騎乗するKMFが持つ箱の中に入れられた。あれがスザクだと確認すらしなかった。ルルーシュの言う通り能力でスザクだと確信しているのだろう。
さすがのスザクも自力で脱出は不可能かもしれない。ということは、カレンがしくじればスザクは本当に連れさらわれる。
屋敷にはC.C.がいるし、カレンと咲世子よりはジェレミアの方が屋敷に近い。
幸いというべきか、ナナリーはアーニャとすでにここを離れている。
敵の動きから考えてもターゲットではないナナリーたちを追ってはいない。
もしそっちに動きがあったならルルーシュが即指示を出していたはずだからまちがいない。
そう、考えていた。
・・・今思えば、この考え方は目の前の敵と何も変わらない。
優秀すぎる指揮官の指示を全面的に信じてしまった。
盲信し、それ以外の可能性を否定してしまった。
ルルーシュの策が敗れるなんて考えもしなかった。
普通に考えれば、敵が預言者であるなら、全ての策を読み邪魔をしている人物がいることに気づいているし、その人物が屋敷にいることも・・・もしかしたら幼い子供だということも全て気づいていたのかもしれない。
イエスかノーしかわからないのだと甘く見ていたが、『全ての策を見抜いているのは一人か』→イエス。『策士は屋敷にいるのか』→イエス。というように範囲を狭めていけばルルーシュの護衛がC.C.だけで、彼女は不老不死である程度の戦闘ができたとしても複数人に襲われればても足も出なくなるレベルだということも知られていると考えるべきだったのだ。
私達の弱点が一番目立つ場所にいて、そこを抑えられたら私達の負けなのに、相手がそこを狙わないとどうして思ってしまったのか。
全て気づいたときには手遅れで、屋敷からルルーシュは姿を消していた。